ELEMENTAL 特別編 「キセキの舞(前編)」

属性が統べるこの世界を旅する水揆達8人の一行は、南方に位置するとある島国へと来ていた。

気温が暑くなるこの時期になると、水が豊富に溢れるこの港街ではある祭りが開かれるという。
もう何十年も続いているというその祭りの逸話をフィルは簡単ながら説明してきた。

かつて、この街に踊り子と剣士の少年の2人がいました。
 2人は共に親友同士で幼い頃から常に一緒でしたが
 魔物との戦のため、その少年は戦へと駆り出されて行きました。
 街から去って行くその間際、剣士の少年は踊り子の少年に向かい
 「必ず、帰ってくるから」そういい残し街を後にしました。
 
 踊り子の少年は信じ続けました。
 その剣士の彼は絶対に戦から生きてこの街に帰ってきてくれると。
 毎日のように舞を舞い続け、祈りを捧げ続けました。

 それでも運命は残酷でした。
 剣士の少年が戦へと出てから約3年程でした。
 待ち続けていた踊り子である少年の元に剣士の彼の死亡通知が届いたのは・・

 踊り子の少年は嘆き、そして悲しみに暮れました。毎日をただ泣きはらし過ごす毎日。
 そんな彼が夜の海岸で一人涙していると
 一人の法衣を目深に被った老人が一枚の札を差し出し、それを踊りの子彼へと与えました。

 不思議そうにその札を見つめる少年に向かい、老人はただ一言告げました
 「お前さんの願いをその札に書き記し・・あの木に吊るすがよい。星の晴れた夜にの・・」
 そう告げた老人は静かにその場から去って行きました。

 少年にしてみれば何の目的があって、その札を渡したのかはわかりませんでした。
 それでも少年は藁にもすがる思いを持って札に記しました。

 《大切な親友に逢いたい・・》

 星が眩いばかりに輝きを放つ夜に
 踊りの子少年は願いを記した札を老人が指し示した木へと吊るし
 その木の前で祈りました。一心不乱に、神への祈りを捧げ続けました。

 すると、星の光が瞬き、光が集まっていったかと思うと
 その光は踊り子である少年の前で剣士だった少年の姿へと変っていったのです。
 
 突如目の前に現れた親友であった少年を目の当たりにし
 踊り子の彼はは一瞬何が起こったのかわかりませんでした。
 それでも、優しく剣士の少年が微笑みを返し、踊り子である彼の名を一言呟くと

 踊り子の彼は涙を流しながら、少年の元へと歩み寄り抱きしめました。
 剣士だった少年もまた瞳から溢れる涙を拭う事もせず
 ただ踊り子の彼を抱き返しました。

 「舞いを見せて欲しい」剣士だった少年の頼みを踊り子の彼は快く受け
 美しい舞を少年へと披露しました。

 踊り子の彼は剣士だった少年の手をとり、共に星の光を浴びた木の下で舞い続けました。

 時間は過ぎ行き、夜の闇は次第に朝焼けの薄暗さへと変って行きました。
 朝への時間が迫ると共に
 剣士だった少年の姿が徐々に薄らいで行っていることに踊り子の少年は気付きました。

 剣士だった少年もまた、自分の姿が希薄になっていっていることに気付き、悟りました。
 そう、神の奇跡が許されたのはこの一晩だけなのだ・・と。

 せっかくまた出会えたのに・・!!踊り子の少年の顔はまた絶望のそれへと変わりました。
 そんな踊り子の彼へ剣士だった少年は優しく微笑み、そして告げました。
 
 「君が願いを持ち続けてくれるなら、僕達は再びこの場所で出会えるよ。
  だから、忘れないで。その想いを忘れないで・・」


 その呟きを残したかと思うと、少年の姿は煙のように消え
 後に残ったのは木に吊るされた札だけでした。
 
 《大切な親友に逢いたい・・》

 札に記された、踊り子の少年の切なる願い。
 たった一夜だったけれど、奇跡を導いてくれたその札を彼は抱き寄せました。
 大切なあの人がそこにいるかのように。

 その後、少年は札を与えてくれた老人を探しましたが
 既に街を発ってしまった後だったのか
 いくら探しても見つけることは出来ませんでした。

 そして、不思議な事に少年が吊るしたその札には
 確かに書き記したはずの《願い》が煙のように掻き消えていたとのことです。
 まるで札自身が役目を終えたことを悟ったように願いを書き記した文字だけが・・・

 もしかしたら、あの老人は神様だったのでは。
 その思いを胸の内に残しながらも少年は毎年
 その木に願いを記した札を吊るし奇跡を願い続けました。
 再び親友同士だった剣士の彼に会える事を、信じ続けて・・


簡単な説明を終えたフィルは更に続けて

語り続かれてきた伝説の友情に心打たれた何世代か前の町長が
その伝説を元に開かれたのが今開催されている祭りで
伝説の元になったあの木に願いを込めた札を吊るせば、願いが叶うというものらしい。

今となっては私欲の願いを吊るしている人達がほとんどらしいが
祭りの規模がそれなりに大きいので、願いが叶っている人もいることはいるらしい・・とのこと。
まあそれも噂程度のことでしかないが。

「へえ〜こちらの世界でいうところの七夕って奴ですね〜」

水揆は感心しながらもフィルが指差した木の方へと目を向けた。
細身ながらも長々と立っている木はどうやら水の底から生えてきているものらしい。
遠めでよく見えないが、葉の部分はかなり細めで、全体的に笹の木に似ているようだった。

一行は数日間開かれるこの街で休息をとることにした。というか最初からそのつもりだった。

聖太や風に街の中を見て回ろうぜ、と誘われた水揆だったが

「あ、すみませんっ;ちょっと色々と建物とか図書館とか見て回りたいんで」

そうやんわりと断りを入れると水揆は聖太達から一人離れて
町並みの中へと入って行った。背中に迷子になるなよ〜!という風の叫び声を受けながら。

「ははっ聖太さんじゃないんですから〜」

と一人になったあと口にポロッと出し、即座に心の中で聖太に謝る水揆。

街の中は祭りの初日ということもあってか、通りはかなりの人達で賑わいを見せていた。
祭り中の慣わしなのか、過ぎ行く人達は何やら浴衣にも似た涼しげな格好をしている。

その間にも水揆は立ち並ぶ家屋へと目をやり、観察を怠らない。

「へえ〜白を基調にした石壁ですか。かなり手入れ行き届いてますね〜」

そう、水揆が感想を独りごちていたその時だった。

「ピート!!ピートじゃないか!?」

露店が立ち並ぶ通りに突如として響き渡ったその声に
辺りにいた人達は一斉にその声の主へと目をやった。
水揆も同様に、その声の方。後ろの方へと顔を向けた。

年齢的には水揆と同い年か、一つ上位かの少年がその場に硬直して立ち尽くしている。
たぶん、15、16歳くらいだと思われた。
その少年が呟きを発しながらもおぼつかない足取りで進んでくる。

「ああっ・・ピート。やっぱりお前死んでなかったんだな・・ピート・・」

途中から堪えることができなかったのか目じりの端から涙が溢れだしている。
少年はそのまま水揆の前で止まるとその場に崩れ落ち嗚咽をもらし始めてしまった。

「えっちょ、ちょっと・・あの〜もしも〜〜し?」

いきなり同い年位の少年にに泣きつかれる事などした覚えがない以前に
この街に来た事も初めての水揆・・そもそもピートって誰??

何が何やらわからなかったが、周りの人から送られる視線が妙に痛い。
どうしたものか困り果てた水揆だったが、そこへ先と同じように声が響き渡った。

「兄貴!また勝手に出歩いて!!旅の人が困ってるじゃないかって・・・え!?」

その少年の弟だろうか?
今度は13、4歳程の少年が水揆に泣きついてきた少年へと駆け寄る。
駆け寄った際にふとその人懐っこそうで
少々生意気そうにもとれる雰囲気をもった少年が水揆の顔を見ると
少年はまるで落雷に打たれたかのような衝撃を表情に浮かべていた。

だが、すぐに夢から覚めたように浮かべていた表情を戻すと頭を下げてきた。

「ごっごめんなさい。兄貴が迷惑かけちゃって・・ほらっ兄貴。帰るよっ」

「ピートは・・ピートも一緒に・・」

「だから、兄貴!!ピートはもう・・・・ほら!帰ろっ」

その後も兄貴と呼ばれた少年はピート、という言葉を繰り返していたが
その度に弟らしき少年の方がなだめ、通りの奥の方へと消えて行った。

「い、一体何だったんでしょう・・」

一人取り残された水揆は少々茫然としながらその場に立ち尽くした。
すると、周りで今のやりとりを見ていた人達の話し声が耳に入ってくる。

「さっきの子供達、2,3ヶ月前、弟さんが亡くなったんじゃなかったか?」

「ん?ああ、確か・・王都から帰国中に魔物に襲われたとか・・可哀相だよな・・」

青年2人組の話声をはっきりと耳にした水揆はその2人組の方へと歩み、そして言った。

「あの・・そのお話、詳しく聞かせてくれませんか?」

          ◆ ◆ ◆

なんでも、さっきの少年達には末っ子にあたる弟がいたそうだ。
名前はピートといって舞を舞うのが大そう得意だったらしい。

将来は王都の劇場で主役を勝ち取り舞台へ出るのが夢だったとか。だが2、3ヶ月前。

王都へと旅立った彼が、一時帰国するためこの街へ帰国中の際、魔物に襲われ死亡したと・・

街から発行された記事によれば
遺体は魔物に食われたのか現場には残っていなかったらしいが
変わりに彼愛用の錫杖がその場に残されていたという。
不思議な事に魔物に襲われたかもしれないのにも関わらず血液や魔物の体液などが
まったく付着していなかったらしい。

その亡くなった少年の兄、最年長で名前はディンと言うらしいが。
彼は遺体が残っていなかった事からかたくなに弟の死を否定した。
否定して、認めないで、絶対に弟は生きていると信じ続けた。
だが、弟の死亡通知を受け取ったその日から次第に気力を失っていき
今では正体不明の病に冒されているという。

その話を聞いた水揆は青年達にその少年達の住まいがどこかを聞いた。
聞くところ、あの願いを叶えると詠われている木から、少し離れた街のはずれにある家がそうらしい。

一度気になり始めると止まらない性分な水揆は、教えられた場所を記憶するとその場所へ向かった。

          ◆ ◆ ◆

「はーい、今開けるからちょっと待っててー」

木製のドアを叩いてからほんの数秒後
家屋の中から兄をなだめていた少年の声が聞こえてくる。
白を基調とした石壁の家、窓際には花を植えた植木鉢
家の前には小さな庭があり雑草がキレイに刈り取られていた。

普通の家だった
だが空気がそう思わせるのだろうか・・どこか悲しげな雰囲気を漂わせている。

「はい、誰で・・・・あっ」

開かれた扉の先に13、4歳程の少年が現れ、そして同じようにその場に立ち尽くした。
だが、硬直した時間は先よりも短く、会釈を返してきた。

「あ・・さっきは兄貴が迷惑かけちゃって・・」

「あ、いえ・・そんな」

「えっと・・それで、何か用が?」

そう問われた水揆は若干目を伏せ、そして顔を上げた。

「先程、この街の人に聞いたんです。君のお兄さんと弟さんの話を・・」

「・・・」

無言のままうつむくように顔を下へと向ける少年。そのまま水揆は続けた。

「僕の顔、その弟さんと瓜二つだそうですね・・
 それで、その。僕に何か出来る事・・ないかなと思って・・」

少年は伏せていた顔をも元に戻すと半開きになっていた扉を開けた。

「あの・・立ち話もなんか失礼だし・・中に入りませんか?」

「いいんですか?さっきのお兄さんは・・」

「大丈夫。兄貴、2階の自室に篭っているから・・
 音もそんなに聞こえないだろうし、誰が来たかわかんないと思うから」

そう言いつつ、少年は促すように家への空間を空けた。

「じゃあ、失礼します」

少々遠慮がちな口調を含みながらも水揆はその家へと足を踏み入れた。

          ◆ ◆ ◆

「オイラ、ルッツっていいます」

「あ、僕は氷ヶ崎 水揆 といいます」

「コオリガサキ ミズキ・・変った名前だね・・どんな字?」

「あ、えっとこんな風でですね」

借りたペンと紙を用いて自分の名前を書き記す水揆
ルッツはそれを見て再度不思議そうに声をだした。

「見たことない字だなー・・本当、面白い人だね」

「あはは、そ、そうですか?」

苦笑しながらも割と大きめな部屋へと通され、椅子へ掛けるように促される。
少々経ってルッツはお茶の入ったポットとクッキーの乗った皿を手に戻ってきた。

「あ、すみません」

「どうぞ、結構いけると思うんで」

人懐っこそうな笑みを浮かべるその少年に言われるがまま
水揆は煎れられた紅茶を口に含んだ。ほのかな甘みが口内を満たす。かなりおいしい。

「あの、それで、僕に出来る事・・何かありますか?家に入れて頂いたという事は・・何か」

「そうだね・・最初水揆さんを見たとき、本当に弟が帰ってきてくれたのかと思ったんだ。
 兄貴が水揆さんを弟と見間違えたのも無理ないかなって・・」

そこまで言うと悲しみを含みながらも笑みを浮かべて更に続ける。

「話を聞いたんだったら、知ってると思うんだけど。
 オイラと兄貴の弟、ピートっていうんだけど。
 本当に俺達の事が大好きでいつも一緒にいたんだ。
 踊りも上手くて、行く行くは王都の劇場で舞台を営むのが、ピートの夢だったんです。

 それも・・今じゃ叶わない夢になっちゃったけど・・。

 ピートが亡くなったと知らせを受けた兄貴は、その事実を受け入れてくれなかったんだ。
 何しろ、遺体が残っていなかったそうだし・・
 でも遺品の錫杖を見せられて、オイラは確信したんだ。ピートは、もう・・・。」

息をつき、言葉だけが流れて行く。

「それでもピートは・・・もうこの世にはいない。
 オイラはその苦しみを少しは乗り越えられたかもしれない
 けど兄貴は・・悲しみから逃れられないでいるんだ。
 ピートがまたこの家に帰ってきて「ただいま」って、そう言われるのをずっと待っている。
 最近じゃあ、この街に伝わっている逸話を信じるようになっちゃって・・」

「逸話って、あの札に書いたことが一夜だけ叶ったという?」

「うん、それのこと、かな」

そしてルッツはすがるような面持ちで告げてきた。

「水揆さん、お願いだ。
 ピートの代わりに兄貴の前で舞いを舞ってくれないか、あ、いや・・くれませんか?
 こんなお願いするの、失礼だってわかってるし、バカだっていうのも分かってる・・
 だけど去年、この街を発つ時あいつ言ったんです。

 『帰って来たら、絶対僕の舞を見せてやるから!
 だからそれまで楽しみにしてて、お兄ちゃん達』

 って・・・迷惑な願い事だとはわかってるんです。でも、兄貴も、もう長くないから・・
 だからっせめて!!・・せめて・・兄貴の願いを叶えてあげたいんです」

涙を浮かべ、慣れていないのか少々不自然な敬語を使い
必死になって願いを請うルッツを目にして、水揆は自分自身悲しみに囚われた気がした。

大切な人がいなくなってしまったその事実
それを受け入れられずに伝説にすがる一人の少年。
病に冒され命短き少年の切なる願いを叶えたいと祈るその弟。

「つまり、ピート君に成りすまして、代わりに舞いを踊ると・・そういうことですか?」

「・・はい」

それはつまりは、結果的にどうなろうとルッツの兄であるディンを騙す事に繋がる。
だけれども、無念を心のうちに秘めたまま逝ってしまったとしたら・・・それは
ディン自身にとっても・・そして、ルッツにとっても耐え難い悲しみであるに違いない。
だがその願いが自分にしか叶える事が出来ないならば・・
何より、そんな悲しい想いを年端もいかぬ少年に味合わせたくない。
そう心のうちで考えをまとめ、水揆は決心した。

椅子から立ち上がり、そして涙するルッツの手を取り優しく告げた。

「絶対、叶えてみせます。お兄さんの願いを・・必ず」

水揆のその言葉を聞き、再度嗚咽を繰り返すルッツ。
決心を固めた水揆の意志は揺るぎないものへとなっていた。

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